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JAPOS火星大接近観測キャンペーン

 2020年秋、赤い火星が地球に大接近します。今回の火星の大接近は2018年の大接近に匹敵する好条件です。今回よりも条件の良い接近は、2035年9月まで15年待たねばなりません。なお、お近くの公開天文台での観察の可否は、直接お問い合わせください。

火星さんようこそ

【1】火星の準大接近2020

 赤い色が特徴の火星は、地球の外側を公転する外惑星です。火星は外惑星の中では最も地球に近づきますが、実際の大きさは地球の1/2程度の小さな惑星で、望遠鏡で拡大しても表面の観察の難しい天体です。地球からの距離も大きく変化します。地球との距離が最も近くなる時期を「接近」といいますが、この用語は距離が大きく変化する火星以外ではあまり使われることはありません(※1)。接近の頃(衝の頃)は、火星を観察する好機です。衝と次の衝となるまでの周期のことを「会合周期」といいます。火星は地球と軌道が近く、地球と火星の公転速度(太陽を周る速度)もあまり違いません。地球が逃げても火星もそれなりの速度で追いかけるために、その差は少しずつしか広がらないので、火星の会合周期は全惑星の中で最も長く、約2年2ヶ月となります。
 最接近時の距離も地球との位置関係でかなり異なります。理想的に近い場合を「大接近」といいます(※2)。最も遠い「小接近」とでは2倍近く距離に差があり、すなわち見かけの大きさも2倍近く異なってしまいます。火星の大接近は15~17年ごとに訪れ、観察の絶好機となります。最近では、2018年に大接近がありましたが、2020年秋の接近も大接近に準ずる好条件です。


※1:
 地球を挟んで、太陽の反対側に惑星が来る位置を「衝」と言います。木星や土星では、「接近」という用語はあまり使われることはなく「衝」が使われます。
 「衝」と「接近」は、厳密には定義が異なります。「衝」は、外惑星と太陽の黄経の差が180°になる瞬間を指し、「接近」は地球と惑星との距離が極小となる時です。
 2020年の火星は、10月6日に「最接近」で、10月14日に「衝」となります。

※2:
 「大接近」は慣習的な用語で、どの程度まで近づくと「大接近」とするかの定義はありません。


解説図:近年の火星の接近(2016年~2037年)
火星の2005年から2020年の位置

近年の火星の接近(2016年~2037年)
日付(世界時) 距離 視直径 等級 備考
天文単位 万㎞
2016/5/31 0.50322 7528.0 18.6 -2.0
2018/7/31 0.38497 5759.1 24.3 -2.8 大接近
2020/10/7 0.41493 6207.2 22.6 -2.6 準大接近
2022/12/1 0.54448 8145.2 17.2 -1.8
2025/1/12 0.64230 9608.7 14.6 -1.4 小接近
2027/2/20 0.67792 10141.5 13.8 -1.2 小接近
2029/3/29 0.64725 9682.6 14.5 -1.3
2031/5/12 0.55336 8278.1 16.9 -1.7
2033/7/5 0.42304 6328.5 22.1 -2.5 準大接近
2035/9/11 0.38042 5691.0 24.6 -2.8 大接近

解説図:地球と火星の距離の変化(2002年~2031年)
地球と火星の距離の変化(2002年~2031年)

【2】火星観測ガイド

(1) 2020年9~10月の星空

 2020年の9月~10月の火星は、9月初めには深夜に地平出(地平線から現れること)します。9月10日に留で、順行から逆行に向きを変えます(※3)ので、その後はどんどん地平出の時間は早くなります。この期間中の火星はうお座にあり、周囲には明るい星もなく火星のみが強烈な明るさで他を圧倒しています。夕空では、いて座に明るい木星と土星があり、目を引きます。火星と一緒にこれらの惑星にも望遠鏡で観察してみましょう。最接近の10月6日前後には、火星は-2.6等にもなり、夕空に見えている木星(-2.2等)に匹敵する明るさで輝きます。


※3:
 背景の星空に対して、惑星が西から東の方向に移動することを順行といいます。逆に東から西の方向に移動することを逆行といい、順行と逆行(またはその逆)に転じる時期をといいます。外惑星の逆行は衝の前後に見られます。



○10月6日(火) 21時頃/東京
10月6日の火星

 火星は、10月6日に最接近となりますが、この日だけが特別に大きく見えるわけではありません。火星の視直径(見かけの大きさ)は少しずつ変化しますので、前後一ヶ月くらいはおすすめ期間中ととらえて観察しましょう。


○2020年の地球と火星の位置関係
2020年の地球と火星の位置関係

○2020年9月~11月の火星の視直径の変化
視直径の変化

 図中の火星の模様は21時頃に見えているものです。(ステラナビゲータ11使用)


(2)火星の観察

 火星など惑星は明るい対象ですから、通常の天体観察とは異なり街中でも十分に観察することができます。空の暗さよりも、気流の状態が観察の良し悪しに影響します。火星が地平線に近いときには、地球の大気の影響を受けやすく、よく見えません。できるだけ地平線高度の高い時刻に観察しましょう。おおむね地平高度が20度以上を推奨します。地平高度が20度を超えるのは、火星が地平出してからおよそ2時間後です。


○各地の日没と火星の出時刻
9月 10月 11月
5日 12日 19日 26日 3日 10日 17日 24日 31日 7日 14日 21日 28日
札幌 日没 18:02 17:50 17:37 17:25 17:12 17:00 16:46 16:38 16:28 16:19 16:12 16:06 16:02
火星の出 19:56 19:28 18:59 18:27 17:54 17:19 16:45 16:10 15:37 15:05 14:34 14:05 13:38
東京 日没 18:03 17:53 17:43 17:32 17:22 17:12 17:03 16:57 16:47 16:40 16:35 16:31 16:28
火星の出 20:09 19:41 19:12 18:40 18:06 17:31 16:56 16:22 15:48 15:16 14:46 14:18 13:51
大坂 日没 18:19 18:09 17:59 17:49 17:39 17:30 17:21 17:13 17:05 16:59 16:54 16:50 16:48
火星の出 20:26 19:59 19:29 18:57 18:24 17:49 17:14 16:39 16:05 15:33 15:03 14:35 14:08
福岡 日没 18:39 18:29 18:19 18:10 18:00 17:51 17:42 17:34 17:27 17:21 17:16 17:13 17:11
火星の出 20:47 20:20 19:50 19:18 18:45 18:10 17:35 17:00 16:26 15:54 15:24 14:56 14:30
那覇 日没 18:44 18:37 18:29 18:21 18:14 18:06 17:59 17:53 17:48 17:43 17:40 17:38 17:37
火星の出 21:03 20:36 20:06 19:34 19:00 18:25 17:49 17:14 16:40 16:09 15:39 15:11 14:45

9月中の火星の出は、日没よりもやや遅くなりますので外出の際には注意ください。
10月初めには日没とほぼ同じ時刻に地平出するようになります。


○火星と他の惑星の視直径の比較

 火星の最接近(10月6日)の火星と他の惑星の視直径(見かけの大きさ)の比較。火星の視直径は大きく変わりますから、接近の頃が観察の好期となります。

惑星の見え方
(ステラナビゲータ11使用)

 火星の模様でよく知られているものには、大シルチス、太陽湖、キンメリウムの海などがあります。主な模様は図を参照して下さい。
 2020年の接近時は、火星の南極付近を観察することができますが、火星の南半球は夏を迎えており、残念ながら南極冠を見ることは難しいでしょう。2020年の南極冠は、3月頃に最大となっていますが、その後は火星の南半球の春を迎えて縮小していきます。
 火星の自転は24時間38分で地球の自転に近く、1時間観察すると、火星の経度で約15°向きを変えていきます。翌日の同じ時刻では約10度だけ向きを変えていますが、ほぼ同じ面を向けて見えます。


○火星図(技術評論社星空の教科書より)
火星の地形

 火星は明るい対象ですから、スマホやデジカメでも意外と写すことができます。ただ、望遠鏡とカメラのレンズの中心が合わないと、なかなか写野の中心に火星をいれることができません。カメラを接眼レンズから離すと割合に写野に入りやすくなります。このままでは像が小さすぎますので、そこに写る火星を確認しながら接眼レンズに近づけていくと上手く合わせやすいでしょう。いずれにしても慣れが必要ですので、繰り返し練習しましょう。

(3)地球と火星の比較

 太陽系の中では、火星は地球のすぐ外側を公転する岩石質の惑星で、他の惑星と比べると地球に近い性格があります。薄い大気も存在し、生命の痕跡があるかもしれないと多くの探査機が送られて、研究が続けられています。
 しかし、大きさは地球のほぼ半分の直径しかない、とても小さな惑星です。小さすぎるために、通常の時期の地上からの観測は熟練が必要です。約2年2ヶ月毎に訪れる地球との接近が観察の好期で、2020年10月の接近は、木星・土星などの大惑星にも見劣りしない視直径となります。


地球 火星
太陽からの平均距離
(軌道長半径:AU)
1 1.523
公転周期(年) 1 1.880
自転周期(時間)※ 23時間56分 24時間37分
直径(赤道直径:㎞) 12,756 6,792(地球の約半分)
※自転周期は恒星に対する数値

【3】各天文施設の情報

アストロアーツ・パオナビに情報を掲載しております。こちらをご参照ください。

詳しくは、直接各天文施設へお問い合わせください。

このページに掲載している内容・資料は、各天文施設・団体の火星観察のための資料として自由にご利用ください。


【4】火星ギャラリー

以下の画像は、撮影者のご厚意により掲載しております。これらの画像は、撮影者のお名前を明記することで、自由に利用することができます。 著作権は撮影者に属します。利用範囲に制限はありませんが、良識の範囲でお願いいたします。

火星の写真 佐野

2020年9月1日 撮影:佐野康男(北海道名寄市)/画像は南が上


火星の写真 森永
2018年8月4日 撮影:森永成一(鹿児島県天文協会)


火星の写真 西 火星の写真 西
2018年8月26日 撮影:西健一郎(鹿児島玉龍高校)/画像は南が上


火星の写真 船越
撮影 ハートピア安八天文台 船越浩海


火星の写真 草野1
2018年7月14日 撮影:草野敬紀(佐賀天文協会)/画像は南が上


火星の写真 草野2
2018年8月4日 撮影:草野敬紀(佐賀天文協会)/画像は南が上


火星の写真 草野3
2018年8月26日 撮影:草野敬紀(佐賀天文協会)/画像は南が上


平塚市博物館撮影の映像(Youtube)

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